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『どうぶつがっこう とくべつじゅぎょう』

作・絵 トビイ ルツ 2017年 PHP研究所


”Doubutsu Gakkou Tokubetsu Jyugyou”
Story & Illustration by Rutsu Tobii 2017 PHP Institute, inc.

2017年3月21日発売

<書評・紹介>
西日本新聞 2017年4月6日


「しまうまシリーズ」について

2017年までに出版された全5册は、しまうまを主人公にした読み切りのお話。どの作品から読み始めても、楽しむことができます。シリーズで読むと、それぞれのお話に登場したエピソードの関連性がわかるので、しまうまシリーズ全体を通じて描かれている「個性を大切にして、仲間と共に仲良く成長していく」というテーマをより深く理解できると思います。




『どうぶつがっこう』とは

「どうぶつがっこう」は、動物が先生で人間の子供たちが生徒の学校。その中で、しまうまの子供だけが人間ではありません。学校では動物の先生たちが、「感覚」を使って文字や言葉を学ぶ方法や、「経験」から自分の個性や才能を知る方法、仲間と仲良くする柔軟な考え方など、「動物ならではの習性」を通じて、人間の子供達に生きていく上で大切なことを教えていきます。この学校で、人間の子供と、外見も種類も違う生き物のしまうまの子供は、互いに違いを尊重し、仲良くしていくことも学びます。
 

ことばの力

人間同士は、お互いに伝えたいことがある時に「ことば」をつかいます。
 
「ことば」には、すごい力があります。
 
「ことばに傷つく」とか「ことばに癒される」という表現がありますが、実際にことばで笑顔になったり、涙がでます。からだの反応で「ことば」の影響力の大きさに、改めて気がつきます。

意味や思いがこもっている「ことば」には、そんな大きな力があるのですね。
 
人間は、特に小さな子どもの頃は、絵本を見たり音を聞いたりする「からだ」の体験を通じて「ことば」を習得していきます。この感受性を豊かにすることは、「ことばの力」で自分の気持ちを前向きにするだけではなく、友だちと仲良くコミュニケーションするために大切なのでは、と考えました。
 
おはなしの中では、人間と動物というちがう世界に生きる者同士も、「ことば」を通じてその奥にある気持ちを理解することで、「こころ」を通わせることができました。
 
子供も大人の世界でも、ことばによるいじめは起きていますが、自分の言った「ことば」が大変な威力をもっているという自覚は、子どもの頃からとても大切だと思います。
 
ひどいことばが、叩いたり、殴ったりするのと同じ痛みを与えると知っていれば、ことばの暴力は防ぐことはできるのではと、願ってやみません。
 
そして、すでにたくさんことばを知っていて、進化しているはずの私たち大人ーお父さんやお母さん、先生も、うっかり子どもたちをことばで叩いたり、暴力をふるうことがない世の中を願うのです。
 


「ちがうこと」より「おなじこと」に注目すると、世界がかわる

「しまうまシリーズ」では、どの作品も「ちがうこと」が重要なキーワードのひとつになっていました。
 
『どうぶつびょういん』では、他の子どもたちとちがうために、仲間はずれで悩んでいる男の子が登場しました。
 
『しまうまのしごとさがし』では、しまうまの子どもが、みんなとちがった自分の「シマシマ=個性」の大事さに気づきます。
 
『しまうまのたんじょうび』では、さらに多くのどうぶつの子どもたちが、それぞれのちがいから困難にぶつかりますが、ある出来事をきっかけに、ちがいは問題ではなくむしろ大切なことなんだと気づく、多様性のお話でした。
 
『どうぶつがっこう』では、しまうまの子どもと人間の子どもが、互いのちがいの中から、おなじところを見いだして仲良くするという、「こころの視点の持ち方」を、どうぶつの先生から学びました。
 
そして『どうぶつがっこう とくべつじゅぎょう』では?
今回は、人間の子どもたちは、どうぶつの子どもたちと「ことば」の勉強を通じ、多くのちがいはあってもこころはおなじと気づき、気もちが通じあえることを学びます。主人公のしまうまの子どもも、自分とまったく反対でちがうと思っていた友だちの黒しまうまくんと交流しながら、自分の問題と向き合う中で成長します。

 
実際の人間の社会生活の中で、「ちがい」が大きいと、困難が生じることもしばしばです。
 
考え方のちがい、意見のちがい、性格のちがい、男女のちがい、民族や国のちがい...。
時に、白か黒か、賛成か反対か、右か左か…「ちがい」を理由に両者が真っ二つに分断し、対立する現象は、身近な場所からニュースで見る世界の遠いところまで、スケールもさまざまにたくさん起きています。
分かれたままでいいのかな? 本当に自分が正しくて、相手が間違っているのかな? わかりあえないままでいいのかな?

 
「ちがう」ことよりも「おなじ」ことに注目してみたらどうかな?
 
おはなしの中で、人間の子どもたちとどうぶつの子どもたちは、「ことば」の奥にある気持ちを観察することで、おなじように感じていることを知り、仲良くできることを発見できました。
 
しまうまの子どもも、黒しまうまくんとまったく反対のようでいて、「おなじ問題」で悩んでいました。けれども、それだけでは共感できず、黒しまうまくんとの「ちがい」は、しまうまの子どもには最初は理解できませんでした。しかし、対話を続けることで「ことば」の奥にある「おなじ気持ち」を理解し、「おなじ問題」を解決しようと努力したことで、よい結果にむすびつきました。黒しまうまくんという、「自分とはちがう存在」は、しまうまの子どもに成長の機会を与えたのです。
 
「ちがう」とあきらめてしまわずに、「ちがう」ものの中に「おなじ」ことに視点を移す。そこから、新しいことがはじまる。
 
エネルギーのいることですが、しまうまくんと黒しまうまくんは、対話をせずに分断されてしまいがちな今の世の中で、大切にしたい関係の象徴でもあるのです。


黒しまうまくんってだれ?

なぞの転校生?とくべつじゅぎょうで、とおい国からきたどうぶつ?もしかして.....、ゆうれい!?

何度も本を読み返して、「だれ?」ってしつもんしてみてください。
きっと、いちばん 最初にたずねた相手が、黒しまうまくんの正体です。

 
何かわからないことがあった時、あなたはだれにしつもんしますか?
さんすうの答えがわからなかった時、
道にまよった時、
困ったことがあった時...
一番たくさん話しかけたり、そうだんをしているのは、だれ?
 
時には「ええっ」とおどろくような考えや、じぶんとちがった反対のことを言ったりする人かもしれないよ。

でも、そんな人こそ、だいじにしよう。
 
「ちがっていること」が大きいほど、「おなじこと」をはっけんするのに、ちょうせんしてみてね。